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はじめに
この記事では、次のようなことがわかります。
- 「トラピストビール」「修道院ビール」「アビイビール」とは
- トラピストビールの代表例と味わい、特徴
- 修道院・アビイビールの代表例と味わい、特徴
ベルギービールの中でも、混同されがちなトラピストビール・修道院ビール・アビイビールにスポットを当て、それぞれの違いや成り立ち、味わいの傾向について解説します。
「名前は聞いたことがあるけれど、何がどう違うのかは曖昧」という方にぴったりの記事です。
修道院ビール・アビイビール・トラピストビールとは?
修道院ビールとは
かつてベルギーでは、多くの修道院でビールが造られていた。
これらは一般に「修道院ビール」と総称される。
そもそも、なぜ修行の場である修道院でビールが造られていたのか。
そこには主に、次の3つの理由がある。
- 水が安全ではなかったため
中世ヨーロッパでは下水設備が未発達で、井戸水などの生水を飲むことは病気の危険を伴った。
ビールは製造過程で麦汁を煮沸するため殺菌され、アルコールやホップの作用で保存性も高い。
「水よりもビールの方が安全」だったのである。 - 断食期間中の栄養源として
厳しい断食期間中、修道士は固形物を口にできなかったが、液体を飲むことは許されていた。
栄養価の高いビールは、過酷な修行を支える「飲むパン」として重宝された。 - 自給自足と巡礼者へのもてなし
自給自足が基本の修道院において、ビールは重要な食料であり、貴重な収入源でもあった。
修道士たちは巡礼者をもてなすためにビールを提供し、余剰分を売ることで修道院の維持や慈善活動の資金に充てていた。
アビイビールとは
現代では、修道院が直接醸造するものだけでなく、
修道院の伝統的なレシピや名称を受け継ぎ、民間企業が商業的に製造するビールも存在する。
これらは一般に「アビイビール」と呼ばれる。
※広い意味での「修道院ビール」というカテゴリの中に、民間委託・商業生産された「アビイビール」が含まれるイメージ
トラピストビールとは
修道院ビールの中でも、特に厳格な条件を満たしたものが「トラピストビール」である。
いわば修道院ビールの中の、選び抜かれたトップカテゴリー。
トラピストビールとして認められるためには、次の3つの条件を満たす必要がある。
- 修道院の敷地内で造られていること
- 修道士が製造に関与、または管理・監督していること
- 営利目的ではなく、修道院の維持や慈善活動のために生産されていること
これらの条件を満たしたボトルには、
「Authentic Trappist Product(真正トラピスト商品)」と記された六角形のロゴが刻まれている。
現在、ベルギー国内でこの称号を持つ醸造所は5箇所のみである。
基本的には、「修道院ビール」という大きな枠の中に、
「トラピストビール」と「アビイビール」の2種類が存在する形となる。
どちらにも属さない修道院ビールは、現在ではほとんど見られない。
※修道院で醸造されてはいるものの、トラピスト協会の認定を受けていない(あるいは受けられない)といった、非常に例外的なケースは存在する

トラピストビールの代表例
定番度の目安:
★★★=全国流通の大手/★★=中規模・地域ブランド/★=小規模・限定流通
Chimay(シメイ)
定番度:★★★
ブランド誕生:1862年(ベルギー/シメイ)
醸造所:Scourmont修道院(スクールモン修道院)
世界で最も有名なトラピストビール。
ベルギーのスクールモン修道院内で、修道士の監督のもと醸造されている。
1862年に醸造が開始されて以来、高い品質と伝統を守り続けており、ボトルのラベルには「Authentic Trappist Product(真正トラピスト商品)」の証である六角形ロゴが刻まれている。
日本でも手に入れやすいベルギービールの1つで、赤・青・白といった色別のラインナップが特徴。
それぞれまったく異なる個性を楽しめる。
[主な商品]
- Chimay Red(シメイ・レッド/約7.0%)
フルーティーな香りと、濃厚でシルキーなコクが特徴。 - Chimay Blue(シメイ・ブルー/約9.0%)
力強いアルコール感とカラメルのような甘みがあり、熟成による味の変化も楽しめる。 - Chimay White(シメイ・ホワイト/約8.0%)
ホップの苦味が効いた、ドライでスパイシーな味わい。 - Chimay Gold(シメイ・ゴールド/約5.0%)
修道士向けに造られていたビール。軽やかで爽やかな飲み口が特徴。

Westmalle(ウエストマール)
定番度:★★☆
ブランド誕生:1836年(ベルギー/アントウェルペン州)
醸造所:Westmalle修道院
「トリペル(淡い黄金色で高アルコールの修道院エール)」というスタイルを、現在一般的に知られる形として確立した醸造所。
非常にきめ細かな泡立ちと、ホップの苦味が効いたドライな後味が特徴で、トラピストビールの完成度の高さを象徴する存在とも言える。
[主な商品]
- Westmalle Tripel(約9.5%)
“トリペルの元祖”と称される一本。
バナナのようなフルーティーな香りと、しっかりとした苦味。 - Westmalle Dubbel(約7.0%)
赤褐色の濃厚なエール。
キャラメルや熟したフルーツを思わせる甘い香りと、深いコクが楽しめる。

Rochefort(ロシュフォール)
定番度:★★☆
ブランド誕生:1595年(醸造の起源)
醸造所:Notre-Dame de Saint-Rémy修道院
修道院の壁に囲まれた静寂の中で造られる、非常に重厚でダークなエール。
ラベルには「6」「8」「10」という数字が記されており、数字が大きくなるほどアルコール度数とコクが増していく。
なお、この数字はアルコール度数そのものではなく、修道院で使われてきた伝統的な区分を表している。
[主な商品]
- Rochefort 6(約7.5%)
赤みがかった色合い。ハーブやカラメルを思わせる香りと、穏やかで引き締まったコク。 - Rochefort 8(約9.2%)
ダークブラウン。ドライフルーツやチョコレートのような濃厚な香り。 - Rochefort 10(約11.3%)
最上級のフルボディ。プラムやカカオ、スパイスが絡み合う、ワインのようにゆっくり味わいたい。

Orval(オルヴァル)
定番度: ★★☆
ブランド誕生: 1931年(現在の醸造所設立)
醸造所: Orval修道院
トラピストビールの中でも、独特な風味と香りを持つ、特に個性的な銘柄。
ラベルに描かれた「口に指輪をくわえた魚」のマークと、丸いボウリングピンのようなフォルムが目を引く。
日本ではAmazonや大手酒販店(酒のやまやなど)で入手可能(記事執筆時点)。

[商品]
- Orval(約6.2%) … 唯一の商品展開。最初はホップの爽やかな苦味が印象的だが、熟成が進むにつれて独特な酸味と複雑な香りが増していく。
時間の経過で味わいが変化するため、愛好家の中にはラベルに記載された製造日を確認し、飲み頃を見極めて楽しむ人も多い。
Westvleteren(ウエストフレテレン)
定番度: ★☆☆
ブランド誕生: 1838年
醸造所: Saint-Sixtus修道院
国際的に極めて高い評価を受けている一方で、入手困難を極めるトラピストビール。
商業的な流通を一切行わず、修道院での完全予約制・対面販売が基本となっている。
来店者の購入数制限や転売禁止といった厳格なルールが設けられており、その希少性と人気の高さがうかがえる。
種類はキャップの色で判別できる。
ベルギー国内の限られたショップや、ごく稀に専門サイトに出回る程度で、
「出会えたら幸運」と言われるレベルの希少性を誇る。

[主な商品]
- Westvleteren 12(約10.2%) … 黄のキャップ。ドライフルーツやチョコレートを思わせる、重厚で複雑な味わい。
- Westvleteren 8(約8.0%) … 青のキャップ。ダークな色合いで、麦芽の甘みとフルーティーな香り。
- Westvleteren Blond(約5.8%) … 緑のキャップ。爽やかさの中に、麦の旨味を感じるブロンドエール。
アビイビール(トラピスト以外の修道院ビール)
・Achel(アヘル)
定番度: ★☆☆
醸造所: アヘル醸造所(旧セント・ベネディクトゥス修道院)
かつてベルギーに6箇所存在したトラピストビールの一つ。
しかし修道院から修道士が不在となり、「修道士による監督」という条件を満たせなくなったことで、2021年にトラピストの称号を失った。
いわば「消えた6番目のトラピストビール」である。
現在は民間企業に売却され、カテゴリーとしてはアビイビールとなったが、
修道院内の醸造設備と伝統的なレシピは引き継がれている。

[主な商品]
- Achel Blonde(アヘル・ブロンド / 約8.0%) … フルーティーで、ホップの苦味とモルトの甘みのバランスが取れたブロンドエール。
- Achel Bruin(アヘル・ブラウン / 約8.0%) … ドライフルーツのような甘い香りと、しっかりしたコクが楽しめるダークエール。
Leffe(レフ)
定番度: ★★★
ブランド誕生: 1240年
醸造所: Leffe修道院(ブランド起源)/現在は大手AB InBev社が製造
世界で最も売れているアビイビールの代名詞。
ベルギー国内のスーパーやレストランはもちろん、日本でもAmazonなどのオンラインショップで比較的容易に入手できる。
本記事を書く数日前に、酒販店のリカーマウンテンでも見かけたため、味見用として購入。
中世から続く修道院のレシピをベースに、大手メーカーが品質を安定させて製造しており、誰にでも愛されるバランスの良さが魅力となっている。

[主な商品]
- Leffe Blonde(レフ・ブロンド / 約6.5%) … フルーティーな香りと、苦みが少ないマイルドな口当たり。
- Leffe Brown(レフ・ブラウン / 約6.5%) … 焙煎された麦芽の香ばしさと、コーヒーやチョコレートを思わせるコクのある甘み。
まとめ
ベルギービールの世界において、神聖で奥深い存在が「修道院ビール」。
世界にわずか数箇所しか存在しない「トラピストビール」から、スーパーで手に入る歴史ある「アビイビール」まで、その背景や成り立ちは多様。
歴史や思想を知ったうえで、濃厚で奥行きのある修道院ビールを実際に飲んでみると、グラス一杯の味わいが、少し違って感じられるかもしれない。
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アイキャッチ画像出典:Wikimedia Commons /CC BY-SA 3.0
